つい先日、登山ガイドの実技検定試験である安全管理の試験を受けてきました。
今回はその時の様子や準備についてお伝えしようと思う。
今回も守秘義務が課せられているのでどのような試験内容だったかはいえませんが
自分が行って来たことを中心にお伝えできればと思います。
1. 安全管理技術検定を受けるまで
筆記試験から安全管理技術検定を受けるまでには、かなりの時間を要した。
理由は、昨年、自分自身が前十字靭帯を断裂するという大きな怪我をしてしまい、その後のリハビリに一年近くかかったからだ。
その間、特別にガイドの勉強を続けていたわけではない。
ただ、山に戻ることを諦めたわけでもなく、気象学の勉強だけは続けていた。
一方で、今回受験する安全管理技術検定は、筆記試験とはかなり方向性が異なる。
ロープワークを中心とした実技検定になるため、これまでとは別の技術を身につける必要があった。
合格率も半分程度と聞いていたこともあり、怪我から復帰した今年の3月、まずは安全管理技術検定の講習を受けることにした。
この講習は、NIAJという山岳ガイド協会に所属する団体が正式に行っているものだ。
実際に講習を受けてみると、その内容は検定試験で求められる技術とほぼ重なっていた。
検定で行うロープワークについても、基本的にはこの講習の中ですべて学ぶことができた。
自分の場合、結び方そのものは知っていても、それを実際の場面で適切に使いこなせているわけではなかった。
そのため、この講習は非常に良い機会だった。
それまで断片的に知っていたロープワークを、体系的な技術として一つずつ身につけていくことができたからだ。
特に印象に残ったのが、懸垂下降だった。
懸垂下降は、登山において非常に重要な技術である一方、事故にもつながりやすい技術だと思っている。
そのため、これまで何となく行っていた部分も含めて、正しい手順や考え方を改めて学べたことは、今回の検定だけではなく、これからの自分の登山にとっても大きなプラスになったと思う。
こうして講習を終え、必要な技術を一通り学んだ。
あとは、実際の検定でそれをきちんと実践できるか。
いよいよ、安全管理技術検定本番を迎えることになった。
2. 安全管理技術検定とは
ここで、安全管理技術検定について簡単に振り返っておきたい。
この検定は、登山ガイドとして顧客を案内する際、緊急時などに必要となるロープワークを中心とした安全管理技術を身につけているかを確認するための実技検定だ。
そのため、別資格である山岳ガイドで求められるようなショートロープや、テレビなどでよく見る、ガイドと顧客をロープでつないで歩くといった技術が中心になるわけではない。
基本的には、危険箇所で顧客の安全を確保するためにフィックスロープを張ったり、顧客が不安を訴えた際に安全な通過方法を確保したり、緊急時にツェルトを設営したりといった技術が想定されている。
そして、それらを迅速かつ正確に行えるかが、この検定で問われる。
つまり、単にロープの結び方を知っているかどうかではない。
「必要な場面で、必要な技術を、安全かつ確実に使えるか」
そこが、この検定の重要なところだと自分は感じている。
3. 試験前、最後の準備
余談だが、安全管理技術検定は予約制で、定員も設けられている。
つまり、受験したいと思っていても、定員に達してしまえば受けることができない。
今回の検定は8月に行われたものだが、予約自体は4月の初めに行った。試験日程が決まってから本番までは、約5か月。
その間は、3月に受講した講習で教わったことを中心に、復習と実践を繰り返した。
特に試験が近づいてからは、実際の山を想定した練習を増やした。
立木にフィックスロープを張ってみたり、実際に懸垂下降を繰り返したり。
ロープワークについては、目をつぶった状態でも結べるくらいまで、何度も反復練習を行った。
もちろん、目をつぶって結ぶこと自体が目的ではない。
どのような状況でも、迷うことなく確実にロープを扱えるようにするためだ。
こうして5か月ほど準備を続け、いよいよ試験本番が近づいてきた。
そして試験前夜。
ここにきて、前回の講習とは必要な持ち物が変わっていることに気がついた。
気づいたのが前日の夜だったため、急いで石井スポーツへ向かい、必要なものを買い足した。
最後の最後まで、なかなか落ち着かない。
そんな感じで試験前夜を迎えた。


4. いざ、試験会場へ
試験会場については公式に公開されている情報なので書いても問題ないと思うが、今回、自分が受験したのは志賀高原だった。
今回も上高地からの移動だった。
試験前日に上高地を出発し、長野市と信州中野の間あたりにあるゲストハウスで一泊。翌日、湯田中駅から志賀高原行きのバスに乗り、試験会場へ向かった。
この日はあいにくの雨だった。
試験は屋外で行われるものもあるため、「この雨の中、試験はどうやって行われるんだろう」という不安があった。
それ以上に、自分自身の技術が本当に合格ラインに達しているのかという不安もあった。
講習を受け、その後5か月間練習を続けてきた。
それでも、実際に試験官の前で技術を披露するとなると、普段の練習とはわけが違う。
「ちゃんとできるだろうか」
「自分の技術で本当に大丈夫なのだろうか」
そんな様々な不安が入り混じったまま、身体を少し強張らせながら志賀高原へと到着した。
5. 実技試験
試験問題や具体的な課題については、守秘義務があるため詳しくお伝えすることはできない。
ただ、自分が実際に受験して感じた限りでは、教本の内容をしっかりと身につけていれば、十分に対応できる試験だと思う。
さらに、NIAJなどが行っている対策講習を受講しておけば、より安心して試験に臨めるのではないかと思う。
実際の試験では、これまで講習で習い、練習してきたことがそのまま活きた。
概ね自分がやってきたことを問題なく実践することができ、試験そのものは大きく崩れることなく終えることができた。
しかし、実際に試験を受けてみて強く感じたのは、想定外のことは十分に起こり得るということだった。
そして、それは今回の試験でも実際に起こった。
そうした状況にきちんと対応するためには、単純に「この結び方を知っている」というだけでは不十分だと思う。
それぞれの結びがどのような特性を持っているのか。
どのような状況で強度が低下するのか。
その場の状況に応じて、どの結びを選択し、どこまで丁寧かつ確実に処理する必要があるのか。
そういった結びの本質的な部分を理解していることが重要なのだと思う。
これは、何度も実際に手を動かして練習しなければ、なかなか身につかない。
また、今回の試験を受けて感じたのは、必ずしも「この状況ではこの方法が正解」という一つの答えだけが求められているわけではないということだ。
もちろん最低限必要となる結びの種類については確認される。
しかし、それ以外については、最終的に安全を確保できるのであれば、状況に応じてある程度自由に手法を選択できるように感じた。
だからこそ、ただ教本の手順を暗記するだけではなく、なぜその結びを使うのか、別の方法ではどうなのか、そしてその方法で本当に安全なのか。
そこまで考えながら練習しておくことが、実際のガイドには必要なのだと思う。
試験を終えてみると、これは単なるロープワークの試験ではなく、身につけた技術を状況に応じて安全に使えるかを確認する試験なのだと感じた。
6. 試験を終えて
試験が終わった直後は、何よりもまず「終わった」という安堵感でいっぱいだった。
5か月間、講習で習ったことを繰り返し練習してきた。その緊張から解放されたことが、とにかく大きかった。
しかし、時間が経ってから試験を振り返ってみると、
「あそこはこうできたな」
「もう少しこうしておけばよかったな」
と、いろいろと思うところが出てくる。
特に、試験官の先生からは毎回講評をいただくのだが、そこで初めて気づかされることもあった。
試験中はできているつもりでも、第三者から指摘されて初めて見えてくるものがある。
そう考えると、後になればなるほど、
「あー、やってしまったな……」
という思いが積み重なってくる。
今回の試験は、まだ合否が出ていない。
正直なところ、今はもう「お祈り合格」まであるのではないかと思っている。
そして、
「こんなことで本当にガイドが務まるのだろうか」
そんな負の感情に押しつぶされそうになる日々を過ごしている。
ただ、基礎的な部分や技術的な部分で大きな失敗があったわけではない。
その点だけを考えれば、もしかすると本当に「お祈り合格」が舞い降りてくる可能性もあるのかもしれない。
……とはいえ、それではダメなのだと思う。
「合格できるか」ではなく、「本当に人を山に連れていけるのか」。
今回の試験を終えてから、そんなことを改めて考えるようになった。
7. 安全管理技術検定を受けて感じたこと
これまでの記事でも何度か書いてきたかもしれない。
しかし今回、安全管理技術検定を実際に受験したことで、改めてこの検定が持つ意味を考える機会になった。
この試験は、ただ登山ガイドになるために通過しなければならない、一つの試験というだけではない。
ロープの結び方を覚えること。
その結びの特性を理解すること。
そして、実際に人を山へ連れていくということがどういうことなのかを考えること。
そういったことを、一つひとつ自分自身に問いかけられる試験なのだと思う。
技術やロープワークができるようになると、どうしてもそこに意識が向きがちになる。
しかし、実際にガイドとして必要なのは、それだけではない。
顧客への声掛け。
立ち位置。
周囲への目配り。
そして、自分自身の振る舞い。
そういった一見すると些細なことも、安全を確保するうえでは重要になってくる。
もちろん、目の前にある危険だけを見るのではなく、これから起こり得るリスクを予測し、それに対してどのように対応するのかを考えることも必要になる。
技術があるだけでは足りない。
知識があるだけでも足りない。
リスクを予測し、状況を判断し、必要な技術を選択し、そして顧客に安心してもらえるように行動する。
そうしたものがすべて複合的に積み重なって、初めて一人前のガイドになれるのだと思う。
今回の安全管理技術検定を通して、自分が目指しているのは、単に「山の技術がある人」ではないのだと改めて感じた。
多くの人を安全に、そして楽しく山へ連れていける人間になる。
そのためには、まだまだ学ぶことがある。
そして、それこそがガイドを目指すということなのだと思う。
【追記】安全管理技術検定、合格しました
試験を終えてからしばらく経ち、ついに結果が届きました。
結果は――
無事、合格しました。
試験直後は「あそこはこうすればよかった」「あれは失敗だったかもしれない」と反省ばかりしていて、正直なところ合格にはあまり自信がありませんでした。
それだけに、合格の知らせを見たときは本当にほっとしました。
とはいえ、今回の試験を通して感じたことは、本文でも書いた通りです。
合格したことはもちろん嬉しい。
でも、これで安全管理が身についたわけでも、立派なガイドになれたわけでもありません。
むしろ今回の検定を通して、自分にはまだまだ学ぶべきことがあると感じました。
筆記試験に合格し、そして今回、安全管理技術検定にも合格することができました。
登山ガイドへの道も、少しずつ前へ進んでいます。
ここから、さらに山を学んでいきたいと思います。
安全管理検定合格おめでとうございます!ガイド検定までの想い、ガイドへの意義、意気込みが伝わり、興味深く拝読いたしました。平山班でご一緒させていただいた佐藤です。素晴らしい写真購入の件は忘れていませんので。