登山ガイド試験の筆記試験|守秘義務の範囲で、受験して分かったこと

山を歩くことと、山を案内することは、似ているようで少し違う。

自分自身が山を歩くだけなら必要のなかった知識や技術も、「人を山に連れていく」という立場になると、改めて学ばなければならないことが多い。

そんなことを考えるようになって、登山ガイドの資格を目指すことにした。

今回は、一昨年に受験した登山ガイド試験の筆記試験について、守秘義務に触れない範囲で振り返ってみようと思う。

1. なぜ登山ガイドを目指したのか

自分が登山ガイドを目指すようになったのは、2021年4月のことだった。

当時、愛媛大学農学部森林資源学科を卒業したばかりだった自分は、森林保全ボランティアとして青年海外協力隊に参加する予定だった。しかし、卒業と同時に新型コロナウイルスの流行が始まり、海外への渡航はできなくなってしまった。

そんな中、リゾートバイトを通して長野県の白骨温泉で働くことになった。

この頃の自分は、登山をするつもりなどほとんどなかった。

ただ、これも何かの腐れ縁なのだろうと思い、白骨温泉から歩いてすぐのところにある十石山登山口から、十石山へ登ってみることにした。

愛媛で育った自分にとって、4月の山に雪が残っていることなど当時は想像もしていなかった。もちろんアイゼンもストックも持っていない。雪の上をツボ足で登っていった。

今振り返ってみると、このときの登山が、それまでの自分にとって一番危険な登山だったと思う。

なんとか気持ちだけで山頂直下の小屋付近までたどり着いた。しかし、そこにあるはずの小屋は雪にすべて埋まっていて、何も見えなかった。

そんな中、目の前に現れた乗鞍岳が、とても神々しく見えた。

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暗雲の切れ間から一筋の光が差し込み、その光に照らし出された峰々。

その光景によって、それまで知らなかった山の美しさを強烈に感じた。

そして気がつけば、自分はみるみるうちに山の世界へ引きずり込まれていた。

下山は幸いにも問題なく終えることができた。

しかし、後になって振り返れば、自分がいかに何も知らずに山に入っていたのかを思い知らされた。

そこから、山について猛勉強するようになった。

その後、上高地や焼岳、蝶ヶ岳などにも足を運ぶようになり、少しずつ山の楽しさを知っていった。

スポーツとして山を歩く楽しさ。

観光として山を訪れる楽しさ。

そして何より、自然そのものの美しさ。

山を知れば知るほど、その奥深さに惹かれていった。

一方で、学生時代からずっと考えていたことがあった。

それは、どうすれば自然を守ることができるのかということだった。

森林資源学を学び、環境保全に関わりたいという思いはずっと持っていた。しかし、そのために自分は何ができるのか、どのような方法があるのかについては、常に悩んでいた。

そんな中で出会ったのが、登山だった。

登山を通して、多くの人に自然の美しさや奥深さ、そして儚さを伝える。

自然をただ「守るべきもの」として伝えるのではなく、自分自身で山を歩き、その素晴らしさを感じてもらう。その体験を通して自然に興味を持つ人が増えれば、結果として多くの自然を守ることにつながるのではないか。

そう考えるようになった。

そして、自分もそんな山の魅力を人に伝えられる人間になりたいと思うようになった。

これが、自分が登山ガイドを目指すようになったきっかけだった。

2. 登山ガイド試験とは

自分が受験したのは、公益社団法人日本山岳ガイド協会の「登山ガイド」資格。

登山ガイドにはいくつかの区分があり、それぞれに必要となる知識や技術が定められている。資格を取得するためには、所定の受験資格を満たしたうえで、筆記試験や実技試験などの検定を受ける必要がある。

自分が受験したのは、その中でも「登山ガイドステージⅠ」。

今回の記事では、その中の筆記試験について、自分が2024年に受験した際の経験を振り返っていく。

なお、試験問題や具体的な出題内容については守秘義務があるため、この記事では触れない。

あくまで、実際に受験してみて感じたことや、どのように勉強したのか、試験当日の様子など、守秘義務に抵触しない範囲で書いていこうと思う。

※試験制度や受験要件などは変更される場合があります。この記事では、2024年に自分が受験した際の経験を中心に書いています。

3. 筆記試験を受けるまで

筆記試験を受けるためには、まず受験資格を満たさなければならない。

そこで自分は、できるだけ年間50日以上は山に入ることを心がけていた。

登山ガイドステージⅠとはいえ、雪山での登山経験も必要になる。そのため、登山を始めた初年度から独学で雪山にも入るようになった。

とはいえ、経験のない状態で単独の雪山登山をするのは大きな危険を伴う。

そこで、車山高原や霧ヶ峰など、比較的初級者向けの山を中心に経験を積んでいった。

山に入る回数が増えるにつれて、ただ山を歩くだけではなく、「何が必要なのか」「逆に何が必要ないのか」を考えるようになった。

装備についても同じだった。

何を持っていくべきなのか。どこまでなら削れるのか。そして、それぞれの装備がどのような状況で役に立つのか。

山に入るたびにそうしたことを考え、少しずつ自分なりの装備や判断基準を作っていった。

特に気を配るようになったのが、気象についてだった。

天気予報を見るだけではなく、地域によって天候にどのような傾向があるのか、気圧配置や前線がどのように天候へ影響するのかを考えるようになった。

天気図を読むことは、今でも自分の中では登山において最も重要なことの一つだと思っている。

そして、もう一つ意識するようになったのが読図だった。

今では地図アプリが非常に優秀なので、アプリを使っている限り、道迷いで困ることはほとんどない。

しかし、ガイドとして山に入ることを考えると、それだけではいけない。

そこで、時には紙の地図を広げて、自分の現在地や周囲の地形を確認するようにしていた。

こうして山に入るたびに、知識や技術だけでなく、装備についても考えるようになった。

この装備は自分に合っているのか。

この機能は本当に必要なのか。

もっと良い選択肢はないのか。

気がつけば、山に入っていない日でも装備のことを考えるようになっていた。

振り返ってみると、この時期は試験のために勉強していたというより、山に入ることそのものが勉強になっていた時期だったのだと思う。

4. いざ、筆記試験へ

2024年11月。いよいよ筆記試験の日がやってきた。

試験直前の自分は、思っていたほど緊張していなかった。

もしかすると、それなりに勉強してきたという自信があったのかもしれない。

それ以上に強かったのは、これから始まる未来へのワクワクだった。

当時は上高地で勤務していたため、松本から東京まで特急あずさに乗って向かった。前泊も必要だったので、移動だけでもなかなか大変だったように思う。

勉強については、日本山岳ガイド協会から発行されている教本を中心に進めた。

他の受験者のブログなどを読んでいると、教本を中心に勉強しておくことが重要だということは分かっていた。そのため、教本はそれこそ穴が開くほど読み込んだ。

中でも、天気図や読図、生物に関する分野については、かなり自信があった。

一方で、歴史や人物、ロープワークなどについては、少し不安が残っていた。

普段の登山で実際に使う知識は、経験と結びついているため比較的覚えやすい。

しかし、これまでの自分の登山であまり使ってこなかった知識は、どうしても記憶に定着しにくい。

このあたりは、試験勉強をする中でもかなり苦労した部分だった。

そして、試験直前。

さすがにこの頃になると緊張してきた。

余談になるが、試験前に一度部屋を出てトイレに向かったとき、少し遅れて会場に来た登山YouTuberのかほさんと偶然出会った。

しかも、どういうわけか自分を試験関係者か何かと勘違いされたらしく、「登山ガイドの試験会場はここですか?」と話しかけられた。

まさかこんなところで会うとは思っていなかったので、かなり驚いたのを覚えている。

もちろん、本人からすれば何年も前の一瞬の出来事なので、たぶん記憶の片隅にも残っていないと思う(笑)。

会場に戻ると、そこにはいかにも「山の試験」という雰囲気が漂っていた。

受験者は30代から60代くらいまでだったように思う。自分の印象では40代くらいの方が中心だった。

そして面白かったのが、東京の試験会場なのに、みんな登山ブランドのウェアを着ていて、登山ザックを背負って来ていることだった。

東京のど真ん中にいるのに、そこだけは完全に山だった。

そんな雰囲気の中で、試験が始まった。

試験は一般的な学校の試験と同じように、まず試験についての説明があり、所要時間や休憩時間などの説明を受け、その後に問題が配られて試験開始となった。

科目については、記憶では一般知識、専門知識、小論文のような構成だったと思う。時間配分も、それぞれ60分程度だったように記憶している。

※このあたりは当時の記憶をもとに書いているため、正確な試験科目・時間については日本山岳ガイド協会の最新情報を確認してほしい。

実際に試験が始まってみると、勉強しておいてよかったと感じたのは、やはり天気図だった。

自分にとっては比較的得意な分野だったこともあり、ここである程度自信を持って答えられたことで、かなり気持ちが楽になった。

一方で、やはり苦戦したのは歴史や人物に関する分野だった。

正直なところ、ここはかなり厳しかった。

そして、思っていた以上に配点が大きかったように感じた。

試験が終わった瞬間の感想は、

「終わった……」

だった。

歴史や人物に関するところが、自分の中ではかなり壊滅的だったからだ。

ただ、それ以外についてはかなり自信があった。

そのため、試験全体としては、「ここがダメだったかもしれない」という不安と、「それ以外はできたはず」という自信が入り混じった、なんとも言えない感覚で試験会場を後にした。

5. 実際に勉強してみて感じたこと

登山を始めた当初の自分は、本当に何も知らなかった。

山についてはほぼまっさらな状態だったので、筆記試験に向けては、まずガイド協会から発行されている教本を徹底的に読み込んだ。

最終的には、教本を3周ほどしたと思う。

ただ、すべての分野を同じように勉強したわけではない。

自分の場合、生物系については大学で森林資源学を専攻していたこともあり、そこはほとんど勉強しなかった。

教本を一通り確認して、「このあたりから問題が出るのかな」という程度だったと思う。

生物に関しては、中学校や高校で学ぶ生物の知識に加えて、学校ではあまり扱わないような生物の種類や、その特徴について問われることもある。

この分野が好きな人であれば、そこまで苦労しないのではないかと思う。

一方で、自分が特に勉強が必要だと感じたのは、スポーツ科学的な知識、山の歴史、そしてロープワークだった。

ただ、ものすごく難しい問題が出るという印象ではなかった。

だからこそ、変に勉強方法を工夫するよりも、まずは教本に書かれていることをきちんと勉強するのが一番だと思う。

一点気になったのは、教本の中には現在の情報と比べると、少し古くなっていると感じる内容もあったことだ。

その場合は、協会に問い合わせて確認する方法もあるし、試験対策として教本の内容をそのまま覚えたうえで、別の参考書などを使って知識をアップデートしていく方法もある。

ここは受験する人それぞれの考え方でいいと思う。

自分の場合は、できるだけ最新の情報を得るようにしていた。

振り返ってみると、筆記試験の勉強で一番大切だったのは、特別なテクニックではなかった。

教本を繰り返し読み、普段の登山で実際に使う。

そして、実際の山で使った知識は、もう一度自分の中で整理する。

その繰り返しだった。

試験のために覚えた知識ももちろんある。

しかし、ガイドとして山に立つことを考えるなら、試験が終わった後にも使える知識として身につけておくことが大切なのだと思う。

6. これから受験する人へ

ここまで読んで、「登山ガイドの筆記試験は難しいのか」と気になる人もいると思う。

自分の経験から言えば、本気で山に取り組んでいる人であれば、そこまで難しい試験ではないと思う。

ただし、ここでいう「本気で」という言葉を、単純に「たくさん山に行く」という意味で捉えてほしくはない。

大切なのは、自分がなぜ山に登るのか、どのようなガイドになりたいのか、そしてガイドとして何をしたいのかを、自分自身の中ではっきりさせておくことだと思う。

これは試験のためだけの話ではない。

自分がどのようなガイドになりたいのかという考えは、小論文を書く際にも自然と出てくる。そして何より、実際に人を山へ案内する立場になったとき、その軸があるかどうかは大きいと思う。

例えば、アルパインクライミングを極め、非常に高い登山技術を持っていたとしても、それだけで優れたガイドになれるわけではない。

もちろん、ガイドとして十分な登山技術を身につけていることは最も重要な要素の一つだと思う。

しかし、ガイドという仕事は、それだけではない。

山に対する知識や技術はもちろんのこと、同行する人のことを考えること、安心して山を楽しんでもらうこと、相手に合わせて行動することなど、ホスピタリティの部分も非常に重要なのだと思う。

だからこそ、「自分はどんなガイドになりたいのか」ということを、試験を受ける前から一度考えてみてほしい。

自分の目指すガイド像がはっきりしていれば、勉強するべきことも見えてくる。

そして、そういう視点を持って山に向き合っていれば、筆記試験そのものは、必要以上に恐れるものではないと思う。

実は、ガイド協会の教本の最初にも、これと似た趣旨のことが書かれている。

結局のところ、試験に合格することだけを目的にするのではなく、「自分は何のためにガイドになるのか」。

そこを考えながら山に向き合うことが、一番の試験対策になるのではないかと思う。

7. 筆記試験を終えて

試験を終えた直後は、歴史や人物に関する分野にかなり不安が残っていた。

それ以外にはそれなりの手応えがあったものの、「もしかしたらダメだったかもしれない」と思いながら結果を待つことになった。

そして後日、無事に合格。

登山を始めた2021年から約3年半。

何も知らず、アイゼンすら持たずに雪の十石山へ登っていた自分が、登山ガイドを目指して勉強を続け、ようやく最初の関門を越えることができた。

もちろん、筆記試験に合格したからといって、登山ガイドになれるわけではない。

ここから待っているのは実技試験だ。

知識として知っていることと、実際の山の中でそれを使えることはまったく違う。

そして何より、自分一人で山を歩くことと、人を山へ案内することもまた違う。

登山ガイドへの道は、ここからが本番だった。

次回は、筆記試験合格後に挑んだ実技試験について書いていこうと思う。

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